太田母斑-赤ちゃん・子どものレーザー治療
(原因、治療方法~副作用まで徹底解説)
太田母斑の症状
太田母斑とは、おでこ、こめかみ、上下まぶた、眼球(白目)、頬、鼻、耳などに現れる青あざでお顔の片側だけに現れることが多いですが、両側に現れることもあります。色素細胞(メラノサイト)が存在する深さによって、青だけでなく、茶色や黒色、灰色のように見えることもあります。生まれつきあるもの、生まれて間もなく色が目立つようになるもの、思春期ごろから色が現れるものがあります。
遅発や再発する場合もありますが、皮膚の薄い乳児期(1歳未満)から治療を始めたほうが治療効果が高く、色素沈着などの合併症のリスクも少なくなります。ただし、明らかに範囲が広がっている間は、太田母斑の範囲を見極めるために経過観察を行うこともあります。太田母斑は他人から見える部分にあるため、集団生活(幼稚園、小学校など)が始まる前に治療を完了できるように治療計画を立てます。
成人になるにしたがい、色調と範囲が広がる傾向にあります。成人の場合は小児に比べて治療回数が多くなる傾向にあり、色素沈着、色素脱失(白抜け)などの合併症のリスクが高くなります。
太田母斑ができる原因
太田母斑は蒙古斑と同じように、真皮という皮膚の深い部分に色素細胞(メラノサイト)が存在していることが原因です。しかしながら、色素細胞が通常は存在しない真皮層になぜ存在し、増殖しているのかは解明されていません。黄色人種に多く、女性に多い青あざです。成人になるにつれて、色が濃くなるのは思春期以降のホルモンバランスの変化が関係していると言われています。
治療を推奨する方の特徴
1)1歳未満の小児
太田母斑の治療はいつからでも始めることができますが、小児の場合、一人で歩けるようになる1歳未満の乳児期から治療を始めることをお勧めいたします。皮膚が薄く治療効果が高いだけでなく、日焼けをしていることも少ないので安全に治療をお受けいただきやすくなります。また、物心がつく前に一連の治療を完了できると精神的な負担を少なくできる、というのも乳児期から治療をお勧めする理由です。
2)あざが気になる方
太田母斑があることで、体の機能や生命維持に影響が出ることはなく、治療の目的は整容面(見た目)の改善を主としたものになります。しかしながら、お顔という他の人からもわかりやすい部分にできるため、集団生活(幼稚園や小学校など)が始まる前に治療が終わるように、色調の拡大が落ち着いたら早めに治療を開始することをお勧めいたします。体の機能や生命維持に影響が出る病気ではないので様子を見る(経過観察)ということもできます。
成人の場合は、ご本人様が気になるなら治療を検討いたします。ただし、小児に比べて色素沈着、色素脱失(白抜け)などの合併症が発生しやすく、日焼けしている方もいらっしゃるので、そのような場合はUVケアを徹底して行っていただき、日焼けの色調が薄くなってから治療を始めます。小児期に治療をしていたが、太田母斑の再発や遅発を認めた、という方も再び治療を行えば、色を目立たなくすることができます。
太田母斑の治療方法
太田母斑に対し、当院ではレーザー治療を行っています。メラニンに反応するレーザーを当てて、太田母斑の原因である真皮に存在する色素細胞(メラノサイト)を破壊して徐々に青色を目立たなくしていきます。太田母斑に対して、有効なレーザーの種類はいくつかありますが、当院ではFotona社のPQX Pico Laser (PQXピコレーザー)という、ピコ秒発振Nd: YAGレーザーを用いて、太田母斑のレーザー治療を行っております。
当院では、太田母斑に対し6×6mmのスポット径(1ショット当たりの照射面積)で照射できるハンドピースを使用しております。標準のハンドピースに比べ、4倍の照射面積(標準の照射面積は3×3mm)で治療を行うことができるので、広範囲に効率よくレーザーを照射することが可能となります。1回の治療も短時間で完了するため、治療をお受けいただく患者様のご負担を減らすことが可能です。
ピコ秒Nd::YAGレーザーは従来のQスイッチ(ナノ秒)Nd:YAGレーザーに比べて低い出力(放射露光)でも効果があるため、照射後の合併症である色素沈着や色素脱失などのリスクを低減できると期待されています。
PQXピコレーザーの特徴
より短時間で強い出力
従来の他社レーザー機器と比較し、四角形の照射径と最短パルス幅(レーザーの照射時間)によって、短時間での施術を実現。
生後の赤ちゃんにも
照射可能出生後間もない赤ちゃんの皮膚に突如現れる青あざ(異所性蒙古斑、太田母斑)などにも施術が可能です。
治療の流れ
- ❶ カウンセリング
- レーザー治療には適応があります。安全に治療が可能と判断されれば、なるべく早期にレーザー照射を行います。
- ❷ 麻酔
- レーザー照射の前に麻酔のテープやクリームを照射範囲に塗布します。麻酔がしっかりと効くまで30〜60分ほどお待ちいただきます。お子様の場合、その間の飲食や授乳はお控えください。
- ❸ レーザー治療
- 麻酔のお薬が十分に効いたら、患者様はレーザー照射のお部屋にご案内いたします。治療中は安全のため、眼を保護するゴーグルとベッドからおちないようにするシートベルトのような器具を使いながらレーザーを照射いたします。治療時間は太田母斑の大きさにもよりますが、数分〜十数分程度です。
- ❹ 治療後
- 治療後はワセリンを照射部位に塗布してご帰宅となります。自宅でも1日2回のワセリン塗布を照射後1週間まで継続してください。次回の照射は3ヶ月ほど間隔をあけてのご案内となります。太田母斑がある部分は、頬骨付近など日焼けしやすいので、紫外線対策は十分注意して行ってください。
治療の副作用と注意点
レーザー治療を行うと、太田母斑の色が薄くなることが期待できますが、小児、成人ともにフラッシュ付きのカメラで撮影した時にわからないくらいを治療のゴールとします。治療回数が増えると、色素沈着、色素脱失(白抜け)などのリスクが高まります。成人の場合はこれらのリスクを了承のうえで追加治療を行うこともあります。太田母斑の原因である色素細胞(メラノサイト)の分布する深さの違いにより、レーザー治療の反応にムラが出て、太田母斑に色調の濃淡が出現することがあります。色調の濃淡は治療を繰り返すことで、徐々に均一になっていきます。
まぶたにある太田母斑は治療効果が低いことがわかっています。これは、レーザー照射時の痛みや恐怖で患者様がまぶたを強く閉じてしまう、まぶたはもともと皮膚に余裕がありシワができやすい、などが原因とされています。治療中は適宜、お声がけをいたしますので、まぶたは軽く閉じる程度にしていただけると、均一な治療効果を出しやすくなります。太田母斑は遅発や再発する可能性がある青あざです。過去に治療した周囲に色が出てきた、治療した周囲に色が出てきた、という場合は遅発や再発を疑いますので、一度診察をお受けいただくことをお勧めいたします。
太田母斑を合併症のリスクを少なく治療するためには、レーザー照射直後にあざが白く変化しないぎりぎりの設定でレーザーを当てていく必要があります。従来のQスイッチ(ナノ秒)Nd:YAGレーザーに比べ、内出血のリスクは少ないですが、内出血が生じた場合、1〜2週間ほどで吸収されて消えていきます。レーザー照射後は軽いやけどのような状態になり、むくみや腫れ、赤みの増加、かさぶたなどが1週間ほど続きます。1日2回のワセリン塗布を照射後1週間まで続けてください。照射の後、青色に対する反応が強く出ると、水ぶくれになるなどの症状が出ることがあります。水ぶくれになった場合は、なるべく水ぶくれを破かないように注意しながら、ワセリン塗布を水ぶくれが無くなるまで継続してください。水ぶくれが破れてしまった場合も同様の処置を続けてください。シャワー浴、沐浴は適宜可能ですが、水ぶくれになっている部分はお風呂を出る前にシャワーなどでもう一度流して、清潔に保ってください。日焼けがあるとレーザー治療の効果が下がるだけでなく、上記のように反応が強く出て水ぶくれになるリスクが高まります。日焼けの程度が強い場合は、リスクを鑑みて照射を延期することがあります。レーザー治療の期間中は太田母斑の周囲を遮光するように十分ご注意下さい。
おおよその費用
以下の表をご覧ください。3歳未満のお子様は乳幼児加算がかかります。居住されている自治体によっては医療費の助成制度が利用できる場合があります。詳しくは各自治体にお問い合わせください。
対象年齢 | 保険適応(2割負担) ※乳幼児加算あり | 保険適応(2割負担) ※乳幼児加算なし | 保険適応(3割負担) |
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0歳~3歳未満 | 3歳~小学校入学前 | 小学生~ | |
4㎠未満 | ¥8,400 | ¥4,000 | ¥6,000 |
4㎠以上16㎠未満 | ¥9,140 | ¥4,740 | ¥7,110 |
16㎠以上64㎠未満 | ¥10,200 | ¥5,800 | ¥8,700 |
64㎠以上 | ¥12,300 | ¥7,900 | ¥11,850 |
参考・引用文献
河野太郎.“さあレーザー治療を始めよう!2023”.
http://www.kokuseido.co.jp/book/no-0578/